2006年 2月12日 追悼カルトの帝王 石井輝男まつり 「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」
シネマスコーレ
 (注)ネタバレ&文中に不適切な表現が含まれています。

もう題名からしてピーな映画、「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」を観て来ました。
昨年夏にお亡くなりになられた石井輝男監督の追悼で、今回は5作品がお祭り上映されます。
シネマスコーレのHPで見つけ、こんな機会は二度と無い!と前売り券を購入し本日一作品目を。
ビデオ化もされていない(と言うか、出来ない)貴重なこの作品を、まさかスクリーンで見られるなんて!と
期待で胸が膨らんで嬉しすぎます。

51席の場内は、いかにもマニアックな観客で満席。意外にも若い女性の姿も2、3人居ました。(妹。を含む)
サイドの通路にはパイプ椅子が並べられ、座りきれずに立ち見する人の姿も。
また壁には代表作のポスターの数々が掲げられ、その紙面からは情気がムアッと漂い、
カルトな雰囲気がムンムンです。もう普段のシネマスコーレでは無く、まさにカルトの帝王祭り。

さて、簡単なストーリーは・・・自分が何者なのか分らない青年(妹。好みの男前)が自分探しの旅へ出る。
その旅先で、健康な人々を強引な外科手術によって奇形人間にしてしまい、無人島に奇形人間の
楽園を作ろうとしている菰田丈五郎という男と出会うのだが・・・。といった感じでしょうか。

上映開始から、すでにヤバイ 凄い。
映画のスタートは精神病院の檻の中からなのですが、狂って乳を放り出し恍惚の表情の女性達。
気は狂っていないはずなのに、その女性達を煽って遊ぶ主人公の青年。
看守に怒られ、「自分は気など狂ってはいない!キチガイではない!」と真顔で叫ぶ青年。
・・・狂ってます。残念ながら しょっぱなから狂ってます。

「意外と狂ってるゾっ!」っと優しく言いたくなるこの青年を取り巻く人物や出来事が、
さらに狂いまくっているので青年が正常に見えます。 ・・めっ 恵まれた環境!
この正常な青年と共に観客も旅に出る事になるこの作品ですが・・・すごくパワーがあって面白い

人物のカットから、色彩、セリフに気合がこもり、もう爆発寸前。
そして、おぱーいが大好きで、ねっとりとしたエロをあたかも爽やかだろうと流してみせる監督。
でも単なるサービス精神ではなくて、普通にお乳が好きなんだろうなぁと綺麗な乳を眺めます。

また、グッと気持ちを持っていかれたのは音楽。
効果音に近いその音楽は力強くて、なんとも言えない世界観がさらに不吉なものになっており
おどろおどろしい雰囲気に胸ぐらを掴まれた様に引き込まれます。

特に気に入ったシーンは波打つ岩場で、奇妙な踊りで登場する菰田丈五郎。これがむちゃくちゃ気持ちが悪い
高度な映像技術でもないのに、この気味の悪さといったら無いですよ、感動するほど気持ちが悪い。
気持ちが悪いのに、なんだか凄く神秘的なものを見ている感覚に陥ってしまい、嫌悪感は無いんです。
ボサボサの長髪に無精ひげと白い着物でくねくね踊ってるだけななのに・・。そ・れ・な・の・に!!!

調べてみると、この菰田丈五郎を演じているのはなんと暗黒舞踏の創始者、土方巽さんなんだとか。
そうか、あのクネクネは暗黒舞踏として地位のある踊りだったんだなと思うと、暗黒舞踏の凄さがよく分ります。
つまりはアートだったんですね。今日、この映画によって暗黒舞踏を受け入れられたような気がします。
「今だ、このカットだ、思いっきり踊ってやるぞ」と出てくる金粉踊りにかなり腹筋が鍛えられ、
ところどころのシリアスな場面で出る間抜けなギャグ(本当は大真面目なのかも)に悶絶させられました。

ラストではいきなり何食わぬ顔で登場し、気持ちよく全てをかっさらう明智小五郎
ここら辺で、ああ、そうか江戸川乱歩の原作だったよねと思い出しました。
そして愛を象徴しつつ飛び散る肉体と、「おかぁさ〜ん」と連呼するセリフに火花。
もう駄目だ、何て事をするんだと笑いを堪え身もだえするも、いきなり出る完の文字に堪えきれず噴出す私。
自然と場内も耐え切れない笑いがこぼれます。もう監督、思い切りが良すぎです。
訳は分らないけど、気持ちが良すぎて鑑賞後はスッキリ。題名は恐怖奇形人間なのにね(´∇`)!

もちろん題名どおりの紹介できない描写も多く、タブーとされる事が満載でゆがんでいる世界。
(本気で抗議が怖いので詳しくは書きません)
でもブラックなのに、暗い気持ちになったりしないんです。悪気のある描写でもないと思いますし。
でも、不快に思う人は居るんでしょうね。そこら辺は色々な考え方があって、なんとも言えませんが。

監督の気合が入りすぎてしまったからか、放送禁止な描写、セリフがわんさと登場し、
『肌色』が差別だと言われ『ペールオレンジ』や『うすだいだい』なんて呼び方に変わったりしている現在では
絶対におおっぴらに放映できない、ビデオ化さえも出来ない幻に近いこの作品。
映画が好きだという方、もし上映される情報を入手された時には、躊躇なさらずに観ることをお奨めします。
もうこんな作品はたとえ差別問題が無くなったとしても、作りたくても、作れない作品だと思いますから。


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